今回は、このほど写真協会学芸賞を受賞された写真評論家・上野修さんの登場です。

oneclick_vol_66_01

「まだ、はじまったばかりだ」
ある日、ラジオから流れてきたこのフレーズが、ずっと耳に残っている。

同じものごとでも、それを、はじまりとして見るか、終わりとして見るかで、印象はずいぶん違う。たとえばアプリケーションのアップデート。いったいいつになったら完成するのか、前のバージョンの方が使いやすかったのに、と顔をしかめるのか。まだ改善する余地があったのか、新しい機能を試してみよう、と胸躍らせるのか。反応は正反対にわかれる。

つい前者のような反応をしてしまいがちなのだが、ここで最初のフレーズをつぶやいてみる。「まだ、はじまったばかりだ」。どんなに長く写真関係のアプリケーションを使っている人でも、せいぜい20年程度だろう。これからいったいどう変わっていくのか想像もつかないような変革の黎明期を、今まさに体験している。そう考えれば、大胆な変更なども楽しめるのではないだろうか。

仕事ならともかく、趣味の場合には、このくらいの気持ちで関わっていた方が、何ごとも味わい深いように思う。たとえば撮影旅行。最終日に、ああもう終ってしまった、あれが撮れなかった、天気もいまひとつだったと嘆くのか。悪天候もまた一興、「まだ、はじまったばかりだ」とつぶやき、今度はどこに行こうか、あのモチーフにチャレンジしてみようかと、次の撮影旅行のプランに胸躍らせるのか。


oneclick_vol_66_02

現代は情報化の時代であり、検索すれば何でもわかってしまうという。だが、ほんとうにそうだろうか。終わりとして見るから、そのように思うのであって、検索してもわからないもの、情報化されていないものは、無数にあるのではないだろうか。検索しても情報が出てこない場所にこそ行ってみて、季節の匂いを感じ、風の音を聴き、光の変化に身を置いてみる。

そうした場所は、遠い海外なのかもしれないし、近所の公園かもしれない。だが、ものごとを終わりとして見ていては、けっして出会えない場所であることはたしかだろう。

「まだ、はじまったばかりだ」。騙されたと思って、このフレーズをつぶやいてみてほしい。もしかしたら、新しい感触、新しい表現がそこから開かれるかもしれない。