画質とVCと最短距離、
この3つを妥協することなく個性的な単焦点を作りたかった!

赤城 最初に今回のSP 35mm F/1.8 Di VC USDとSP 45mm F/1.8 Di VC USDの開発コンセプトや商品企画は、どのぐらい前から考えられていたのでしょうか。一般的にタムロンといえば90mmマクロと高倍率ズームという印象が強いわけですが、突然の単焦点レンズの登場に僕も驚きました。
佐藤 単焦点レンズをやろうという話は、10年以上前から何度もありました。しかし、高倍率ズーム、大口径ズーム、マクロレンズを優先されることが多かったですね。実際に企画が進み始めたのが2012年の春ぐらいだったので、意外と長くかかったなという印象です。
赤城 以前から企画があったのに実現しなかったというのは、マーケティング部署から「売れないだろう」といった声があったのですか?
佐藤 売れないだろうという声より、いよいよ市場の要求が出てきたという部分があります。2010年の「SP 70-300mm F/4-5.6 Di VC USD」あたりからカメラの高画素化が進むなど、光学設計の基準自体を見直さねばという気持ちがありました。そして「SP 24-70mm F/2.8 Di VC USD」、「SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD」、「SP 90mm F/2.8 Di MACRO 1:1 VC USD」などの新モデルを発売してきたことで、市場でも「最近のSPシリーズはいいよね」という評判が高まり、ユーザーからも「次は大口径単焦点レンズを」という声が出てきたのかなと認識しています。
赤城 単焦点レンズはどうしても高倍率ズームよりも販売数は少なくなりますね。それでも市場からの要求が強くあったと。
佐藤 そうですね。弊社のSPシリーズの評判が良いこともあり、ここから光学設計の基準自体を見直そうということで、次は単焦点レンズというリクエストが出てきたのかなと。
赤城 海外の方からもリクエストが多かったんでしょうか。
佐藤 海外も国内も、両方です。弊社は単焦点レンズのラインアップがまったく手つかずという状況がありましたので、そのままにしておくのはやっぱりレンズメーカーとしてはバランスが悪いということで、単焦点もラインアップに 入れようという事になりました。
赤城 そうですか。でも、意地悪なことを言えば、単焦点をラインアップしなくてもタムロンの売り上げとしてはさほど問題はないのではないかと思いますが……。
佐藤 そう言われてしまうと(笑)。ただ、レンズメーカーとしてタムロンがアイデンティティを出していくときに単焦点のラインアップは必要と判断しました。今回、SPシリーズを刷新するという意味もあり、新しいブランドを作っていくという意味においても、単焦点レンズをそろえることが必要だと判断しました。
赤城 後発だから新戦略が必要ですよね。目を惹くのは明るいF値だと思います。でも、あえてF1.8を選ばれたというのは、言葉は悪いですが、普及タイプのイメージがなきにしもあらずです。どうしてF1.8を選んだのか、それが謎なんですよ。
佐藤 実は最初に決めたのは焦点距離の方なんです。35mmと45mmという2本ですが、単焦点として一番層が厚いのが標準域。とくに35mmが最有力だろうという声が社内から出てきました。もちろん、お客様のリクエストにも35mmという要望は強くありました。
赤城 2本同時というのは最初から決まっていたんですか。
佐藤 そうですね。遅まきながら単焦点レンズをやるにあたり、9月2日の発表会の時にも「原点に戻ります」と発表しました。弊社がレンズ専門メーカーとしてこれからブランドを作るにあたり、より趣味性の高い方々に提案していくには単焦点が不可欠だろうと考えました。より一般的な50mmという案もあったんですけれども。企画を進めていく中で、当社は最後発なのだから、より自然な画角で出したいという流れになって。そこから45mmという案が有力になってきました。標準イコール50mmだけではないという事を提案したかったのです。

「デジタルカメラマガジン」2015年11月号 『誕生秘話、TAMRON新SPはこうして生まれた!! タムロン新SPシリーズ開発者インタビュー』 より転載

“ぜひ、素晴らしいスナップ写真をたくさん撮ってください“

映像事業本部 商品企画部 部長
佐藤浩司氏

“身近なモノをアーティスティックに写してください“

映像事業本部 設計技術部 技監
戸谷 聰氏

“お散歩レンズとして
常に一緒に持ち歩いてください“

光学開発本部 本部長 博士(理学)
安藤 稔氏

“手ブレ補正が付いているのでキレイな夜景をたくさん撮ってください“

基礎開発本部 本部長代理
舘野登史邦氏

“気軽に解像力のある写真を
楽しんでいただけたらうれしいです“

映像事業本部 設計技術部 部長
鴨田征明氏

“ぜひ、被写体にどんどん寄って近接による描写を味わってみてください“

光学開発本部 光学開発一部 部長
仲澤公昭氏
赤城 それは面白いですね。でも、かつてはニッコールのパンケーキや、カールツァイスのテッサー、Gプラナーにも45mmはありました。しかし、標準レンズは激戦区ですから、ここにぶつけてくるには、何か個性が必要ですよね。
佐藤 ひとつが防振(手ブレ補正)を載せることです。現在のところ単焦点標準レンズで防振が内蔵されていて、F1台の大口径レンズはありません。もう1つは最短撮影距離、意外と標準レンズは近寄れないな、という感じがしていました。
赤城 F1.8という明るさを採用したのは光学性能面なのか防振のためなのか。それとも小型化するためなのか。光学設計の方にお聞きしたいのですが。
安藤 どちらかと言えば、後者の大きさですね。
赤城 営業からはF1.4にしてくださいとか言われなかったんですか。
安藤 それはあります。ただF1.4にすると口径が大きくなるのと、防振の機構も合わせて大きくなってしまいます。
赤城 大きさや重さを無視すれば技術的にはF1.4と防振の組み合わせは可能ということですよね。
安藤 それはもちろんできます。ただ商品として手軽にスナップなどで使ってもらいたいので大きさ重さは無視できない。そうするとF1.4はないよねという結論にかなり早い段階で至っていました。
赤城 価格よりもサイズ?
佐藤 サイズですね。
赤城 ただF1.8でも、ユーザー的にみますとそう小さくはないですよね。
戸谷 防振とフローティング内蔵のためです。そこに尽きます。防振がなければコンパクトにできますが、商品コンセプトとしても絶対的に防振は外したくありませんでした。さらに最短撮影距離も短く、しかもその性能にこだわりたかったわけです。それを両立するための結果だと思っていただけるとうれしいです。
安藤 フローティングで全域均一な性能を出すことを追求しました。画質を重視した結果、各群の移動量が大きくなってしまい、メカ設計の方にも負担をかけてしまいました。
赤城 つまり性能の保持と防振を内蔵した結果がこのサイズという訳ですね。こちらもあえて意地悪をして聞きますが、その2つがなければ、かなりコンパクトなレンズができる?
安藤 理論的には可能です。しかし、この2本は十分に高性能レンズです(笑)。設計性能だけでいえば防振のためにレンズを動かさない方が良いのですが、それが製品として使ってもらえるかというとまた別の話です。防振を入れて、ある程度の大きさで、気軽にたくさん撮影してもらいたいと考えています。
赤城 そうかもしれませんね。F1.4の大口径レンズよりも、今回のSPレンズは絶対に使いやすいと思います。VC(手ブレ補正機構)があるため、楽に撮れるという言い方も変ですが、ビギナーの人でも使いやすい。
佐藤 防振を搭載することによって画質への影響はどうなるのか、という話は絶対に出てきます。しかし、手ブレはそれ以前の問題です。画素数が多くなり最近は何億というセンサーも開発発表されました。光学性能を大切にしながら、しかし、ブレは大敵と考えました。今回のVCは極力、性能が劣化しないようにシミュレーションした結果、35mmが約3段、45mmで約3.5段としました。意外と少ないと思われるかもしれませんが、段数を抑えた理由は光学性能を維持することを最優先にした結果です。
赤城 開放値をF2にすればもう少し小さくなりそうですが、やはり営業的にはF2では厳しいという判断があったのでしょうか?
安藤 やはりF1台というスペックは譲れないと考えました。
赤城 最短撮影距離の画質への自信は並々ならぬものがありますね。
スイッチ部の変遷

VC(手ブレ補正機構)およびフォーカスのスイッチも細かく調整が行われた。製品版に対して試作版2では丸みを帯びたスイッチ、試作版1では細身のスイッチであることがわかる。このほかにも堅さや突起する量などが検討されたという



レンズキャップ(フロント)の変遷

昨今のトレンドである中央部をつまむことで着脱ができるレンズキャップを採用。試作版2ではデザイン重視でつまみ量が少なく、試作版1はロゴカラーとつまみのトルク(堅さ)を改善して製品版へと着地した



フローティングで均一な性能を出すことを追求

安藤 光学性能はフローティングにすればある程度解決しますが、それをメカの中にまとめることに一番苦労しました。
戸谷 外観からでは分からない部分なんです。
安藤 ほとんどズームみたいな感じですよね。
戸谷 他社のレンズですとリアフォーカスで後ろのレンズだけが動くタイプが多いのですが、たぶんそれだけだと、近接性能を維持することができないと思います。
安藤 近距離ですと湾曲が変動しますので。
戸谷 それでフローティングという考え方でないと性能が出ないという話になりました。そうするとほとんどのレンズ群を動かさなくてはならなくなり、ズームレンズのような複雑さになってきます。しかも、防振群のレンズも背負って動かさなければいけない。そのあたりが一番つらかったです。それもサイズに影響した部分ですね。
赤城 AF性能はどうですか?
舘野 フローティングのためにメカの負担が高く、限られたモーターの推力で動かすとなると、めいっぱい背伸びをした状態です。速く動かしすぎるとAFの品位や信頼性を落とす要因になります。そうしたバランスをとって動かしているので、劇速とは言えませんが、スムーズなピント合わせを実現しています。
赤城 そこは速いと言えばいいのに、真面目だなぁ(笑)。つまり、フローティングだからといって、AFが遅くなるという心配はないというわけですね。
舘野 そうですね。そこは安心してください。
赤城 超音波モーターを変えるという選択肢はなかったのですか? もっとトルクのあるものに。そうするとサイズがさらに大きくなってしまうのですか。
戸谷 あくまでこのサイズがマストだというような考え方が設計側にありました。
赤城 決められたボディサイズに収めるという考え方があったのですね。
佐藤 そうですね。本来、目標としていたサイズはもう少し小さかったんですけどね(笑)。そこは画質とのトレードオフで予定よりも少しだけ大きくなりました。
赤城 機構設計もそうですが、とにかく画質面と性能面ともにトップクラスで試行錯誤した結果、このサイズになりましたということですね。
戸谷 言い方は悪いんですけれども、性能を出すためにはこれだけレンズが重くなるよ、これだけレンズを動かさなければいけないということで、こちらも騙された感じがなくもない(笑)。でもそれをクリアしないといけないので。
赤城 お互いケンカしたりしながら(笑)。
佐藤 それに近いものはありますね(笑)。
赤城 最短撮影距離は35mmが20cmで45mmが29cmが、最初から目標数値があったわけじゃなくて、それぞれが『いや、こうやればもうちょっといける。逆にそうやるとでかくなるからちょっとそこはなんとかしれくれ」というのでせめぎあった結果がその数値ですか。
SP 35mm F/1.8 Di VC USD

レンズ構成:9群10枚
絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
開放絞り:F1.8/最小絞り:F16
最短撮影距離:0.20m
最大撮影倍率:0.4倍
フィルター径:φ67mm 
大きさ:φ80.4×80.8mm(キヤノン用)
φ78.3mm(ニコン用)
重さ:約480g(キヤノン用)
450g(ニコン用

XLDとLDレンズで色収差を低減、中央部のGMレンズ(ガラスモールド非球面)で球面収差を、リアのGMレンズで像面湾曲をそれぞれを補正してい

SP 45mm F/1.8 Di VC USD

レンズ構成:8群10枚
絞り羽根枚数:9枚(円形絞り)
開放絞り:F1.8/最小絞り:F16
最短撮影距離:0.29m
最大撮影倍率:0.29倍
フィルター径:φ67mm
大きさ:φ80.4×91.7mm(キヤノン用)
φ80.4×89.2mm(ニコン用)
重さ:約540g(キヤノン用)
約520g(ニコン用)

フロントレンズが凹レンズであることが特徴的なSP 45mm F/1.8 Di VC USD。リアのGMレンズ(ガラスモールド非球面)で非点収差、サジタルコマを補正する

佐藤 ある光学設計者が「最短域の1cmは血の1cm」と言っていました。今回の2本は最短撮影距離に強いこだわりを持って設計した結果、45mmで29cm、35mmは20cmを実現していますが、これも機構設計に相当に苦労させたと思っています。マクロレンズではありませんが、マクロ風にも使えます。
赤城 昔のレンズはマクロ領域では距離指標にラインを引いて、その位置で使うと性能が少し落ちますよという意味を示していました。私は中心が良ければいいというタイプです。画面中央にある虫や花がきちんと写っていれば周辺は少し悪くても大丈夫。少し真面目すぎたんじゃないですか。
佐藤 最近は高倍率ズームも寄れる方向に設計を変えていますが、こちらは主に中心性能の維持ですね。でも単焦点はそれとは違うものにしたいと考えています。
赤城 実際、最短の描写力はかなり良いですね。
安藤 こだわりのポイントですから。
佐藤 ぜひ、ユーザーにもアピールしたいと思っています。
赤城 大口径レンズですからボケ味の問題もありますね。今回の2本はボケ味もかなりよい印象です。

最短撮影距離とボケ味
そのこだわりが武器

佐藤 そう言って頂けるとうれしいですね。ボケ味も相当苦労しましたから。
赤城 今は特に実写しなくても、シミュレーションでボケの効果は分かるんですよね。
安藤 そうですね、ある程度は。でも、やっぱりボケ味は最終的には実物で写さないと分からないところがまだまだ残っています。
赤城 撮影条件とか距離とか光線とか被写体の形とかエッジとかでボケの見え方が違う。
安藤 そうでうね。
赤城 ボケ味で言うと、例えばF1.4の方が大きくぼけるわけですから、F1.4になんて意見も出てきませんか? 話を蒸し返すわけで恐縮ですが。
佐藤 確かにボケ味という意味では、F1.4という要望は非常に強かったですね。
赤城 でも最短撮影距離が短いから、ボケ効果はそれほど変わらない。
安藤 今回の2本は最短撮影距離が短いですから寄るとすごいボケが強くなります。料理やテーブルフォトを撮ってもらうと、その描写力というかボケ味を感じてもらえると思います。
赤城 僕も撮った感じではすごくバランスのいい、驚きの描写だと思いました。想像以上です。ヌケの良さを感じたし、ボケも重たい感じではないし、45mmはどこまでもシャープです。対して35mmはシャープなんだけど、開放では味わいがありますね。
佐藤 性格が違いますね。多分設計者の性格の違いかもしれません。
赤城 レンズ構成では、そのレンズがどの役割を示しているのか教えていただけますか。
安藤 LDやXLDは倍率の色収差を補正します。ガラスモールド非球面レンズのうち、絞りの近くのものは球面収差、像面に近いものは像面湾曲を補正するためのものです。
赤城 周辺光量も十分に良好ですが、開口効率も開示しないんですか。
仲澤 数値としては公開していません。
赤城 もったいないですね。僕のイメージでは、40%ぐらいはありそうが、35mmにしては結構いい線ですよね。
仲澤 開発側も自信がある部分なのでうれしい評価です。
安藤 35mmは周辺光量の落ち方もすごく自然です。
赤城 実際、僕はどちらかといえば落ちている方が好きなんですけどね。
安藤 周辺光量の低下はレンズの味のひとつですよね。そういう意味ではいい味を出して落ちてくれます。45mmも同じような方向で仕上げています。
赤城 最近は画像処理やレンズ効果で意図的に周辺光量を落としたりするぐらいですからね。レンズ設計、全体の特徴という意味ではどうでしょうか。
安藤 35mmは基本的にダブルガウスが後ろにあって、それにワイドコンバーターがついているという感覚のレンズです。むしろ、例をみないほうは45mmですね。凹レンズ群が先行というレトロフォーカスタイプです。一般的には凹で始まるとディストーション補正には弱くなりますが、45mmの画角だと問題がなかった。しかも周辺域のMTFが結構高い。
赤城 これは標準レンズの仲間ですが、レトロフォーカスなんですね。
仲澤 変形ですが、レトロフォーカスです。
安藤 レンズ構成のどこの部分を使って防振をするのかという問題もあります。ガウスタイプだとそれを割り当てるところが難しいんです。
赤城 なるほど。防振のためにもレトロフォーカスにする意味があるんですね。
安藤 防振をどこにするか、あとはフローティングをどこに内蔵するのか。そこが一般的な50mmとは違う部分ですね。端的に言えば35mmがバランス型、45mmは高コントラスト型だと言っていいかもしれません。
赤城 新SPはこれまでとまったくデザインが違います。実用的なレンズはデザインにこだわらなくていいという考え方もあります。デザインに凝るというのは、お金がかかることです。新製品は鏡胴部のリングが特徴ですね。やはりイメージを大きく変えたかったのですか。
佐藤 このリングは主張しながらもそんなに目立たない仕様を目指しました。
鴨田 デザイナーが目指した「ルミナスゴールド」という色に仕上げることにとても苦労しました。デザイナーから色見本が来るんですが、それを再現するために工場と何度もやり取りを行いました。
赤城 ご自身の満足度はいかがですか?
ブランドリングの変遷

新SPシリーズのデザイン特徴でもあるブランドリング。デザイナーが求めるルミナスゴールド(手前)にするために工場と何度もやりとりを行ったと戸谷(設計技術部技監)は苦労段を語った

デザインの変遷

上が製品版(35mm)と下がデザインモック。ほとんど見た目では区別がつかないほど酷似している。デザインモックに対して、いかに忠実に製品版が再現されているのかがわかる

鴨田 自分でもお金を出して買いたいと思っています。久々にフィルム時代を思い出して、スナップをしながら散歩をしてみたいと思えるレンズに仕上げたつもりです。設計は最新のデジタルカメラに応えるものですが、外観からは古き良き時代のレンズの風合いを感じてもらえたらうれしいですね。
赤城 外装で驚いたのはTAMRONのブランドの文字が違うことです。
佐藤 そうですね。すべて大文字にしました。
赤城 今回は新SPシリーズのプロダクトロゴだと思いますが、今後は社名ロゴもこちらに変わっていくということではないのですか?
佐藤 これは、あくまでもプロダクトロゴです。新SPシリーズにはこのロゴが使われることになります。海外の意見を聞いたところ、全部大文字の方が読みやすいということがわかりました。今回、すべて大文字のロゴを採用したのは、海外の人にもタムロンという言葉がパッとロゴとして分かるということが一番の理由です。タムロンの新SPに対する一種の意思表明ですね。
赤城 今後、SPブランドに関しては、このレンズのコンセプトにおいてレンズ設計されていくことになるんですか。
佐藤 その通りです。
赤城 大口径レンズを開放絞りで使う場合、ミラーレス機のほうがフォーカスの精度に優れます。今回も絞り開放で撮影して、絶対にピントは外せないという場合は、ライブビューを活用しました。こうなるとミラーレス機を使うのと同じです。ミラーレス機用のレンズとしての要望はないんですか。
佐藤 現在はご要望をお聞きしているような段階です。SPシリーズをミラーレスで展開する可能性はもちろんあると思います。
赤城 最後に一言だけ。この単焦点シリーズは2本では終わりませんよね。
佐藤 終わるつもりはまったくありません。ぜひ、ご期待ください。
赤城 なるほど、楽しみにしておきます。
インタビュー取材を終えて

「飽食のズーム時代」だからこそ、
大口径単焦点が再び脚光を浴びている
キヤノン EOS 5D Mark Ⅲ/タムロン SP 35mm F/1.8Di VC USD / 35mm /絞り優先AE(F1.8、1/640秒、±0EV)/ISO 200/WB:晴天 開放F1.8によるスナップショット。光線状態は良くないが、コントラスト、シャープネスも良好で開放とは思えない良質な画像。歪みも少なく、シャドー部の階調再現も高い

近年のレンズメーカーのラインアップをみると、単焦点レンズの拡充に力が入っているように感じる。カメラメーカーも単焦点レンズ、とくに大口径レンズは高性能の特別なものとして位置付けている。タムロンもこれに続き、今回、単焦点レンズ35mm F/1.8、45mmF/1.8で、この激戦区に勝負を挑む。正直に言ってしまえば、単焦点レンズは誰もが必要とするレンズではない。今回のタムロンの2本のレンズもそうだが、標準ズーム、高倍率ズームの焦点域と重複してしまうことがあるからだ。商売的にも大きな成果にはつながることは期待薄である。しかし、F1.8開放時の描写は被写界深度が浅く、F2.8の高級タイプのズームレンズでも得ることのできない個性的な効果が望める。まずはこのために大口径単焦点レンズの存在意義があると言っていいだろう。

本誌の読者には釈迦に説法かもしれないが、交換レンズの使いこなしのコツは、焦点距離別の画角と被写界深度効果を頭に入れ被写体に挑むことだと考えている。かつて交換レンズが高価でおいそれとは買えなかった時代。標準レンズは、絞りを絞りこめば広角風に、開けば望遠風にと、各自が工夫をこらしたものである。このため標準レンズの特性を研究したものだ。ひとつの画角のみで被写体に立ち向かう。つまり、固定した「目」で勝負をかける必要がある。これがレンズの特性を知ることになり、自分にとって本当に必要な次の1本のレンズへの見極めともなるのである。

ズームレンズがあたりまえ、「飽食のズーム時代」だからこそ、単焦点レンズの存在意義が再びクローズアップされるということも最近の傾向としてありそうだ。これはたいへん興味深い。

赤城耕一(あかぎこういち)
1961年東京都生まれ。東京工芸大学短期大学部写真技術科卒業。出版社勤務を経てフリーとなる。エディトリアル、広告での撮影のほか、各誌のカメラ雑誌でのメカニズム記事、ハウツー記事などを多数寄稿